ジブリのマイベスト

それぞれのマイベスト

人によって答えが千差万別にわかれる質問は世の中に色々とありますが、「あなたの好きなジブリ作品は何?」という質問は、まさにその代表的なものの一つといってもいいでしょう。

多数決によって何かがベストの作品として決定されようとも、それぞれがそれぞれのマイベストの作品を持っているのがジブリ作品なのではないでしょうか。

ジブリ作品について語る人々の眼の輝きや、それぞれの作品への思い入れ、個々の人生と鑑賞のタイミングが密接に絡み合い深く人生に残る形で愛されている体験談などに触れると、ジブリ作品と呼ばれる一連の作品群の大きな魅力を改めて実感するようです。

ジブリ作品とは何か

しかし、よくよく考えると、「どこまでをジブリ作品として捉えるのか」という根本的な問題も発生するようにも思います。

たとえば、代表作といってもいい『風の谷のナウシカ』は、果たして「ジブリ作品」なのかどうか、という疑問がまずは当然出てくるわけです。

というのも、『風の谷のナウシカ』は「宮崎駿」の監督作品ではあるけれども、まだ「スタジオジブリ」というものが誕生するちょっと前の作品なのですね。

「スタジオジブリ」という名義が誕生してからの最初の作品は『天空の城ラピュタ』になるわけですが、『風の谷のナウシカ』は、世間ではジブリ作品として認識されているように思います。

「宮﨑駿」が関わっているものであれば「ジブリ作品」であり、『風の谷のナウシカ』は「ジブリ作品」である、ということになるのであれば、『ルパン三世カリオストロの城』や『未来少年コナン』といった宮﨑駿監督作品は、一体どうなるのでしょうか。

しかし、『風の谷のナウシカ』を「ジブリ作品」と呼ぶ人の多さに比べて、『カリオストロの城』や『未来少年コナン』を「ジブリ作品」と言いきる人はあまりいません。

かといって、ジブリのマイベストに『風の谷のナウシカ』を挙げている人に対して、このような観点から「『ナウシカ』はジブリ作品ではないですよ」などと逐一釘をさしていくいうのも、いささか野暮というものでしょう。

あなたにとって「ジブリ作品」とはどこからどこまでを指す言葉なのか、という質問を投げかけてみるのも、人それぞれの「ジブリ作品」という言葉に関する射程範囲や、思考のあぶり出しのためのテスト、マイベストを選ぶ前の入り口としては、ちょっと面白いかもしれません。

ジブリ作品は宮﨑駿作品だけではない

「ジブリ作品」といえば「宮﨑駿」であると決めつけることも、一面的な考え方でしかありませんし、「ジブリ作品」という言葉の幅を狭めることになります。

『風の谷のナウシカ』、『天空の城ラピュタ』、『となりのトトロ』、『魔女の宅急便』、『もののけ姫』といった、ジブリ作品としてまず誰もがイメージするであろう大作の数々を監督しているのは確かに宮崎駿です。

しかし、『火垂るの墓』、『おもひでぽろぽろ』、『平成狸合戦ぽんぽこ』、『ホーホケキョとなりの山田くん』といった人々の記憶に残る作品を監督したのは高畑勲になるわけですし、近年では、宮﨑駿の息子である宮崎吾朗も、ジブリ作品の監督として頭角を表し中核を担ってきています。

宮﨑駿が脚本だけを担当して監督をしていない『耳をすませば』などの作品もありますし、一概に「ジブリ作品=宮﨑駿監督作品」と言い切れないところが、ジブリの面白いところでしょう。

ここで、あらためて『風の谷のナウシカ』という作品が「ジブリ作品」なのかどうか、という根本的な質問が息を吹き返してくるように思われます。

『風の谷のナウシカ』は「ジブリ作品」というイメージですっかり世間に流通してしまっているし、「ジブリ作品」として認めざるを得ないのだが、それは「宮﨑駿監督作品」ではあるものの、厳密には「スタジオジブリの作品」ではないし、むしろ、『風の谷のナウシカ』に比べると、高畑勲などの宮﨑駿以外の監督が「スタジオジブリ」誕生後に撮影した数々の作品のほうが「ジブリ作品」という言葉には適しているようにも感じられます。

あえて宮﨑駿作品にこだわる

ですが、そうであるにも関わらず、ジブリ作品という言葉に含まれる「宮﨑駿」のイメージはやはり強烈なのであって、宮﨑駿が「スタジオジブリ」誕生後に残した鮮烈な作品の印象もあいまって、『風の谷のナウシカ』をも「ジブリ作品」とする、という世間の共通認識が生まれたのだ思いますし、もはや逆らうこともできません。

ですから、ここからは『風の谷のナウシカ』も「ジブリ作品」である、という視点にあえて積極的に寄り添うような立場をとることにします。

スタジオジブリは宮﨑駿だけのものではないのですが、やはり、宮﨑駿によって形成された「スタジオジブリ」のイメージがあることは紛れもない事実なのです。

執拗に、「スタジオジブリは宮﨑駿だけのものではないが、宮﨑駿監督作品のイメージが強い」ということを書いてきましたので、ジブリのマイベストを選ぶにあたって、あえて、「ジブリ」における「宮﨑駿監督」作品に限定して話をすすめていきたいと考えています。

マイベストの選別を通して、「宮﨑駿」の代表的な作品でありマイベストでもある『風の谷のナウシカ』、『天空の城ラピュタ』、『となりのトトロ』、『魔女の宅急便』、『もののけ姫』といった傑作群に共通する主題論的な宮﨑駿をあらためて考え直し、個々の作品のなまめかしい細部にも耽溺しつつ、「ジブリ作品」の新たな魅力を発見していくことになるでしょう。

あるときは「少女」という主題を通してすべての宮﨑駿作品が饗応しあうようなざわめきの瞬間にも立ち会うことになるでしょうし、すべての作品に偏執的に用いられる「飛行」というモチーフと、個々の作品における「飛行」の描かれ方や、作品内の「飛行」という細部が全体に与える意味などについても、作品に即しながら考え直すことにもなるでしょう。

幼少期からジブリ作品に触れて育ち、ジブリ作品とともに成長するようであった自分の人生を振り返るにあたって、ジブリ作品のマイベストの選出というのは、非常に有意義な営みであるように感じられます。

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